『訪問看護一人開業』について

『訪問看護一人開業』について    4月25日分
 
「宮崎さん、1人開業に反対なんだって? 集会で名指しでそういわれていたよ」と知人から連絡を受けた。「ヘーイ、そうなの?」「私は、そのことについて見解を公式に尋ねられたこともなければ、言ったこともないですよ」「私が、反対なのか、賛成なのか、知っていますか?」

1人開業の件
 「星の降るほど訪問看護ステーションを」ということをスローガンに、1人開業の実現化を主張しているグループ・個人がある。
 1人開業とは、正確に言えば「訪問看護ステーションの設置基準である人員配置基準が、現行常勤換算2.5人以上の看護職となっていることを、規制緩和で1.0人、つまり1人の看護師でもステーションを開設できるようにする」ということ。鳩山首相も現場に赴いたとのこと。
 このことについて、賛成して応援している方々はいる。それは承知している。しかし、このことがすんなりと規制緩和の方向で動いていないようである。それに反対しているのが、私や○○さんなどを名指しでいわれているそうなのである。

私個人の意見
 私は、現在、(社)全国訪問看護事業協会の事務局次長という立場で、全国の訪問看護の推進の仕事をしている。その団体や日本看護協会・日本訪問看護振興財団という訪問看護関連三団体が合同で行っている「訪問看護推進連携会議」のメンバーでもある。その団体がどういう考え方なのかは、私はここでは提示しません、できません。その団体にお尋ねください。
 ここでは、宮崎和加子個人の考え方について述べます。『反対ではありませんが、積極的賛成でもありません。非常に不安・心配です』 その理由・根拠は以下の通りです。
<1人でも開設・運営ができる利点>
1.訪問看護ステーションの事業継続のため
全国の訪問看護ステーションの休止・廃止の理由が看護職員の人員不足により、常勤換算2.5人を下回ることがあげられる。常勤換算2.5人以下でも地域住民のニーズに応える訪問看護サービスの提供は可能であり、一人でも多くの国民への訪問看護提供につながる。介護保険上区市町村がその実情により判断できる仕組みがあるが、実際はあまり聞かない。
2.人口の少ない地域でも訪問看護ステーションを開設しやすい 現在、訪問看護ステーション未設置の市町村は全体の47.1%である。人口が少ない地域などで常勤換算2.5人の看護職に見合う利用者の確保が見込めない場合でも、訪問看護ステーションを開設・運営することができ、地域住民への貢献ができる。
3.看護職の事業意欲を在宅ケアに生かすことができる
「一人でも地域に役立つ事業を行いたい」「訪問看護関連の認定看護師・専門看護師の資格を生かして最初は小さく独自の事業を始めたい」などという看護職の意欲をより生かすことができる。事業意欲がある看護職が少なくない。

<不安材料>
 事業規模が小さくなることに対する不安材料は次のとおりである。
1.事業の継続性・安定的運営
 健康上の理由、考え方の変更などにより事業内容が継続されない可能性がある。実際に事業を行ってみるとわかるが、身体的にも精神的にもかなりハードな仕事・事業である。ボランテイアなら継続できない場合でも、時には「すみません」といえるかもしれない。しかし公金を使った社会保障である。安定的運営を第一に保障するとなると、どうしても不安がある。事業所の経営上からも困難が多大である。
2.医師・ケアマネとの違い 医師やケアマネが1人での開業できるということとの対比で訪問看護も語られるが、違う側面がある。訪問看護は訪問介護と連携して、24時間365日の日常生活(日常的な医療的ケアを含めて)そのものを支援・代行するものである。診察やプラン調整という粗い点でのサポートと意味合いが違う。在宅療養生活をする方々を支えるのに、家族介護がない場合などは、その日のその時間訪問しないと日常生活の継続が困難になる(時に命にかかわる)という性格のサービスである。できることだけやるという起業も可能性はあるが、地域の中の多様な需要に応える前提に立てば不安が払拭できない。
3.訪問看護の質の確保
複数の看護職で、チームでの質の向上を行っている面があるが、仮に一人での事業の場合、質の確保の面で不安がある。
4.訪問看護の現場の看護師などからそういう要望・声をあまり聞かない
 私は、全国の現場のみなさんと会う機会が少なくない。多様な意見・要望などを耳にする機会があるが、「一人でもステーションを開設できるように」という声を耳にしたするは非常に少ない。客観的に制度改定すべき内容は、現場でヒシヒシと感じていることが多く、全国的に共有する内容だと実感しているが、この問題はなんだかそうではないのである。
 だれが望んでいるのだろうか? 私にはその声があまり聞こえないのである。

 以上のようなことから、私の現在の意見は、『反対ではありませんが、積極的賛成でもありません。非常に不安・心配です』。もし、仮に1人でも開設できるようになったとしても、全国の看護職に『どんどん、1人でも開業しましょう』と鼓舞していきたいとは思えないのです。人員配置基準が1.0人になることが全国の訪問看護の発展にそんなに影響するとは、私には思えないのです。

勝手に人・団体を敵にすることはルール違反
 私が納得いかないのは、数年前にそういう話が出たときに私が反対したのだそうだが(詳しくは覚えていないが、たぶん「今はとても難しいのでは?」といったようには思う)、それはそれとして、今・現在の私の意見など全く聞くこともしないで、反対派と勝手に決め付けているような動きがあることである。非常に不愉快に思う。何の真実性もなく、勝手に団体や個人の意見を時空関係なく持ち出しているように見える。
 訪問看護を発展させたいと思っているのは、基本的には業界のためではない。その利用者・国民にとっての利益のために看護職ができること・力をフルに発揮するにはどういう仕組み・制度がいいかを考えることが大事。敵でも見方でもないではないか。

 『星降るほど訪問看護師を!』これは大賛成!! 事業所としての訪問看護数ではなく、従事する訪問看護師数をどれだけ多くできるかが大きな課題。その訪問看護師はボランテイアではなく、私の主張は、『20歳代には、2~3年は常勤でバリバリと訪問看護の現場で活躍しよう!! 』です。たくさんの若手看護師が地域の中で眼を輝かせて仕事をする姿をどう作るか。このための多様・多角的な動きをしているところです。

 5月には、『訪問看護元気化計画・・・現場からの15の提案』(医学書院)という本が出版されます。著者は宮崎和加子と川越博美です。どうやったら、訪問看護を国民に十分に届けられるか、それが大事なことだと思う。あの手この手でみんなで試みましょう。取り組みましょう。