たった10分の重み

たった10分の重み          2月5日分

 ある土曜日のお昼のこと。講演・取材のために長崎にいたのですが、携帯電話が鳴りました。「宮崎さん、何とかしてほしいの。神奈川県藤沢市に住んでいる知り合いのSさんが、がんの末期であと2・3日の命だろうと言われているんだけど、どうしても病院で死ぬのはいやなので家に帰りたいといっているのよ。口から全く食べられず点滴をしているの。病院の医師に話したら、普通はこんな状態では退院は無理だというの。でも、家まで来て診てくれる医者がいれば退院させてもいいでしょうって。それでいくつかの医者に頼んでみたんだけれど、あさっての月曜日になれば何とかなるかもしれないけどだめなのよ。どうやってそういう医師を探せばいい? 明日では遅いかもしれないのよ」友人からの切羽詰ったコールでした。
 その地域ごとの事情はみんな違います。私は藤沢のことは知りません。しかし、何とかできないかと考えた末に、藤沢に詳しい知人を2人思いつきました。ところが、ケアマネジャーをしていた友人Aさんには連絡がつかない。もう一人のBさんは顔と苗字は知っているんだけれど、連絡先を知らない。そこで、Bさんと親しいCさん(高野山で修行している)に電話してあいさつをする暇もなく、Bさんの携帯電話番号だけを教えてもらいました。
 私は、恐る恐るBさんに電話しました。「宮崎です。覚えていますか?」「あら、宮崎さんどうしたの?」「実は、・・こういう人がいて今日退院したいといっているんだけど、何とかできないかしら。あなた、自分で会社を興して訪問看護や介護の仕事をしているんですってね。あなたに頼んだら何とかしてくれるんじゃないかなとおもったの」。・・・Bさん「大丈夫よ。いいお医者さんを紹介するわ。私たち訪問看護師が受ければ、お医者さんはOKしてくれるわよ。家での死の看取りね。まかして」というのです。
 私は、感動しました。なんと力強いことか! 今、退院したいといっている死を間近にした人を、今OKといって受け入れる気持ち・体制に! こういうSさんのような方を今すぐに退院OKできる地域は日本中で、どれくらいあるでしょうか。

たった10分の電話で満足な生き方・死に方
 私はいつもいっています。「21世紀前半は、『がん』と『認知症』が勝負だ。国民誰でもが直面し、しかも今の段階で解決策が見えていない分野だ」と。人は必ず死ぬわけです。それを目の前にしたとき、人はそれまでとは全然違った何かを思いつき、何かにこだわり、何かをしたくなる・・・。元気なときには考えていなかった何かを。それが何かはみんな違う。「家に帰りたい」「退院したい」「○○さんに会いたい」「夕陽を見たい」「ビールを飲みたい」「映画を見たい」「生まれた場所にもう一度いってみたい」「カラオケで歌いたい」・・・。
 その何かを自分で表現してもらい、そしてそれを叶えましょうよ。かなり出来る!藤沢のこのSさんは家に帰って何をしたかったか。一人暮らしだったSさんは、家に帰り、子どもさんたちが交代でつきっきりだったそうです。秋紅葉の時期のSさんの家の広い庭は菊や楓や柿や・・・秋いっぱい。家に帰ったSさんが何が変わったかというと、顔つきだったそうです。病院にいるときには、なにか焦ってオドオドしているような表情だった。家に帰ってからは、仏様のような顔になってにっこりするんだそうです。
 「2・3日間だといわれた命が、7日間生きたのよ! ちょっと食べられてね。この7日間がどれだけ幸せだったか・・・。家族も私たち友人たちも、たぶん本人がどれだけ幸せだったか。宮崎さん、そんな幸せをありがとう」と。
 私は、何もしていない。10分間電話をかけただけ。頑張ったのは、藤沢の訪問看護師のBさんチームと地域の開業している医師・・・在宅チームと、ご家族・友人。
 一人の人の人生の最期が、その周囲のたくさんの幸不幸に影響を及ぼす。Sさんのような方をすぐにいつでも受け入れられる地域づくりをどうしていくかが日本の社会の大きな課題です。それはそれでそのために頑張りましょう!
 しかし、個人的な知り合い・友人・つながりも大事にしましょうよ。今回はたまたまうまく人と人をつなぐことが出来ましたが、それが出来ないこともあります。しかあいそんな広い日本じゃないです。様々な人たちがどこかでつながっているんです。こわがらず、億劫がらず、失敗をおそれず、つながりましょうよ! そのことがまた何かを生んでいくような気がするんです。

*ブログが遅れぎみですみません。春の芽吹きの時期に弱い宮崎和加子です。この時期はなんだか落ち込むんです。年中行事というか、季節病というか・・・。あまり気にしないでください。でもやさしく声をかけてください・・・。

たった10分の重み” に対して2件のコメントがあります。

  1. yasuko より:

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    2月9日の研修で先生のお話をお聞きしたものです
    寒い中、浦和まで起こしいただきありがとうございました。宮崎先生と川越先生のお話をお聞きし、元気をたくさんいただきました。
    上の記事を読ませていただきました。
    先日先生が、「すぐに受け入れられるか」と質問された時、少しだけ迷いましたが、この記事を読ませていただいて、きっと私たちステーションもできると確信しました。
    私も繋がり。。。大好きです!
    先生とこうしてブログで繋がっていられることも最高にうれし~~ (^-^) (調子に乗ってごめんなさい。)
    研修終了の最後にあいさつにお伺いした看護師です(三人で・・・)
    もし、私たちの地域に『人生の最期に何かをしたい』方がいらしたら、ぜひご連絡くださいネ。
    所長を説得してでも頑張りますからね。

  2. もっちー より:

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    宮崎さんは本当に、この季節が厳しそうですね。
    でも、たくさん応援してくれる人、ファンの人がいらっしゃいますから、ちょこちょこお仕事しながら、ゆっくりと時間を過ごしてください。といっても、やっぱり元気にいきそうだなあ。
    そうですね、茶色い炭酸の飲み物なんかがきくかもしれません。今度はそういう場で、ゆっくりいろいろなことを教えてください。

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