フランスの農と食文化

フランスの農と食文化           4月15日分

フランスの大学院で学んでいる次男が一時帰国している。そして、雑誌に書いた文章をみせてくれました。何年ぶりに息子の文章を読んだことだろう? 小学校の読書感想文以来かなあ。
なかなか面白かったので、本人の許可を得て転載させていただきます。

宮崎耕太
北海道大学農学部農業経済学科卒
幼少期より、山形のさくらんぼ農家の祖父母宅にて手伝いをしたことがきっかけで農業に興味を持ち、将来、日本農業発展に貢献するべく農業経済の研究を続けている。
東京都出身25歳

私は北大農学部で農業経済を勉強し、ヨーロッパ農業に興味をもち、学部卒業後「EUの中心国であり農業国」という印象があったフランスに渡った。また授業料が無料というのも理由のひとつであった。
現在は、南仏のモンペリエ第一大学経済学部修士2年で、地域経済・アグリビジネスの戦略というテーマを主に研究している。

●「農業国」フランスの概況
ここで少しフランスの紹介をしておく。まずフランス本土面積は日本の約1.5倍であり、人口は約半分である。また国土の54%が農地であり、農業国というのも納得できる。
最近の農業の傾向であるが、1990年以降の農家早期退職の奨励や若手農業者育成の影響で、この10年間で農家戸数は66.3万から49万、つまり4分の1の農家が無くなったことになる。特に10ha以下のフランスで小規模とされる農家は激減している。また農家平均年齢も47.5歳と日本の65.8歳に比べ20歳も若いのが分かる。一戸あたりの平均農地面積も42haから55haと大規模化が進んでいる。これは他のEU加盟国であるイタリア、ドイツでも同様の傾向である。

●バラエティに富んだ農業

パリなど首都圏を一歩外に出ると、すぐ広大の農地が眼下に広がってくる。またそれは地域により特色があるので、TGV(フランスの新幹線)などで旅行するとその美しい景色に飽きることはない。

各地の農業の特色を大まかに述べると、北部は広大な平野が広がっており、主に北海道のように小麦を中心とした畑作地帯である。北東部はさらにシャンパーニュの産地であり、大西洋に面する北西部は雨や霧が多く酪農が盛んであり、カマンベール発祥の地として知られている。
次に南部は、ボルドーなど南西部はワイン、リヨンなど東部はアルプス山脈麓で、ワイン、酪農牧畜、モンペリエ、マルセイユなど南仏(南部、南東部)は晴天の日が多く、ワイン、野菜、果物の生産が盛んである。
以上のようにその地方の気候、地形に適してバラエティに富んだ農業が行われているのがわかる。

フランス人の食文化

●毎日フランス料理を食べている?

「フランス料理」と聞くと皆さんはきっと高級レストランの料理を想像するのではないだろうか?確かに昨年、フランス料理は世界遺産に登録された程であるが。しかしフランス人は日々何を食べているのだろうか?
先に述べた通り、フランスの農業事情は非常に多岐に亘っており、ご当地の料理も沢山あるので一概には言えないが、こんな諺?を聞いたことがある。
「フランスでは、どんなに田舎、貧乏なお家に行っても必ずパン、チーズ、ワインでもてなしてくれる。」
つまり、この3つが食文化の基本であり、またワイン、チーズはその地方特有のものがあるということを表している。(写真1;ワイン、チーズ、パン)
一般的な食生活をご紹介すると、朝はヨーグルト、パン、コーヒーなどで皆、少食なイメージである。昼はサンドイッチやピザ、パスタなどで、夜は毎日ではないが、母親の手料理を、食卓を囲み時間をかけて食べるのである。(写真2:カスレ。南仏の郷土料理で豚肉ソーセージと白いんげんを長い時間煮込んだもの)
特に春、夏はテラスなど外で食べることが多い。(夏は夜10時ごろに日が沈む)また各食事必ずデザートを食べる。どうやら最後に甘いものを食べないと食事が閉まらないようである。
 
●マルシェで買い物

マルシェ(市場)が各都市、街のいくつかの場で開かれている。近郊の農家が野菜、果物また肉や魚などを売り にくるのである。
私も自宅の近くで、マルシェが週三日やっており、頻繁に買いに行く。日本では、大型スーパーなどで買い物をすることが多く、小さな八百屋や肉屋などの数がどんどん減少している。商店街がシャッター通り化してしまっているのが、全国で大きな問題となっている。しかしフランスでは、パン屋など比較的小さな商店が多いという印象を受ける。
その理由をフランス人学生と共に考察してみた。
理由の1つとして、大型スーパーの多くは郊外にあり、その利便性に問題があるが、八百屋などの小商店、またマルシェは街中、住宅地に集中している。
しかし、大きな理由として、マルシェなどは無農薬野菜、肉も多く、消費者は農家の人と「顔の見える関係」の下で安全を買っているのであろう。その地域の食品(ワイン、缶詰など)もマルシェでしばしば売られているので、消費者は地元のことを知り、愛着を持つようになるのであろう。
消費者は、マルシェで生産者との交流以外にも、地元の住民同士の情報交換など、社会的つながりを維持、形成することができる。これを大切に考えている消費者はフランスでは多いように感じる。
フランスでのこうした関係も、以前からあったが80、90年代の大型スーパーの参入により改めて見直されたようである。だから消費者は多少高くてもマルシェや小型商店に行くのである。

この国では、あまり効率化ばかりを推し進めず、家族や人との繋がりまた時間を大切にしているように感じる。それは食に対する考え、自国の食文化に対するプライドが大きな要因になっているのであろう。私も急に日本食が食べたくなってきた。