人には人の老い方がある

人には人の老い方がある
 仕事帰りや会議の合間のちょっと空白の時間ができると、私はよく本屋とCDショップに行く。ふらっと眺めながら時々手に取り、時々どうでもない本も買う。大きな書店よりは小さな本屋さんの方が好きだ。そんなふうにして出会った本の中で私の考え方や生き方に大きく影響を及ぼすものも少なくない。
 先日、何気なく買った本は心に響いた。

認知症のお母さんのことを漫画で描いた本 
この本を購入した理由は二つ。一つは、認知症関連だったから。漫画はあまり読まないのだが、認知症関連はどんなふうに書かれrているんだろうと興味がある。二つの理由は、とても売れているようで入り口付近に平積みになっていたから。つまり、「認知症のことを描いた漫画が平積みになっている! めくってみなければ」と。
 タイトルは『ペコロスの母に会いに行く』岡野雄一著、西日本新聞社。表紙に書いてあるのは、「62歳の漫画家が描く、認知症の母との可笑しくも切ない日々。映画化決定」。認知症になられたお母さんは今はグループホームで暮らしている。それ以前からの、母とのかかわりや会いに行った様子などからこれまで生きてきたようすと重なり合わせて表現されている。

長崎弁がいい
 何がいいって、まず長崎弁がいい。何とも言えない暖かさや人間味がそのまま出ている。母の認知症の症状や介護のことを細やく書いてあるのではなく、認知症になられたお母さんの体のと心の動きと昔からの生活・人間関係を織り交ぜながら物語のように語りかける。原爆のこと、造船所に勤めていた夫(父)の酒乱の意味と生活・・・さまざまな来し方がありのままに書かれていることが、読み手にすうっと入ってくる。まなざしが暖かい。
 介護職にとっては「その人をよ~く見る・知る」ことの意味を深められる。

詩人伊藤比呂美さんの言葉

 詩人の伊藤比呂美さんが、この本にメッセージを書いている。
「・・・わたしは、ペコロスさんに、マンガの面白さだけではない、介護の修羅場を生き抜くものとしての同志のような思いを抱いたのです。人には人の老い方がある。生き方がある。死に方がある。そして、人には人の介護のかたちがある、と」
 私には、この言葉が妙に心に残った。