介護保険施設等における人員配置基準に関する調査研究

介護保険施設等における人員配置基準に関する調査研究  
9月15日分
 
 先日、「東海地区認知症フォーラムin岐阜」にシンポジストとして参加させていただいた。記念講演は、大森わたる先生(東京大学名誉教授、社会保障審議会介護給付費部会会長)。介護保険が出来るときの状況と、来年4月に改訂になる介護保険の報酬がどういうふうに変化する可能性があるかどうかなど、歴史的な背景を含めて興味深いお話をお伺いした。正直、“そこまでいっていいんですか?”というようなお話もあった。
 その後、4人によるシンポジウムだった。大森先生と、厚生労働省の認知症対策室の課長補佐、和田行男さん(大起エンゼルヘルプ)と私だった。その詳しい内容はきょうはお伝えできませんが、その中で会場のみなさんの前で、大森先生がこう発言なさった。「ここにいる和田さんや宮崎さんが中心的に行った研究の報告書がとてもよくできている。こういう類の研究は今までなかった。その内容をちょっと皆さんに紹介したほうがいいんじゃないか」と。
 それで和田さんが概要を説明した。

おもしろい研究
 正式名称は、平成22年度老人保健健康増進等事業「介護保険施設等における人員配置基準に関する調査研究」(社団法人財形福祉協会)である。京都大学大学院教授の三浦研先生が研究委員長。概要は以下のよう。(報告書より一部抜粋)

【背景】
介護保険関連施設等は、そのサービスの種類により定められた人員配置基準に基づいて運営されているが、人員配置基準は施設によりかなり格差があり、実際の現場では配置人員を増やして要介護者の支援・サービスに従事しているところも少なくないが、結果的には支援・サービスの量・内容がかなり大きく異なっている。これは受け手側の国民からみると、利用する施設によりたサービスの量・内容が違ってしまうこととなり、不平等になっていると言わざるを得ない。
また、これまで介護保険施設等の人員配置やその基準やサービスの内容の比較などについての実態調査はほとんどなされておらず、現在の基準が適切なのか、介護現場の実態との乖離がないのか、質を担保しているのか、など明らかにされていない。

【目的】
本研究事業では、人員配置基準の根拠となる法的背景、施設種別ごとの人員配置の実態に関する定量的な把握、個別ケアの実施状況の把握を行い、現状の人員配置基準における課題、個別ケアの実施に必要な施設種別ごとの望ましい人員配置基準を検討し、今後のあり方について提言することを目的とする。
なお、この研究で対象としたのは、介護保険関連施設として以下の6種類(以下「介護保険施設等」と呼ぶ)である。            <>内は呼称
①特別養護老人ホーム(従来型)   <入所者>
②特別養護老人ホーム(新型)    <入居者>
③老人保健施設           <入所者>
④特定施設(おもに有料老人ホーム) <入居者>
 ⑤認知症対応グループホーム     <入居者>
   ⑥小規模多機能型居宅介護サービス  <利用者>
 
【内容と方法】
そのために具体的に、以下のことを明らかにする。

1.法的人員配置基準・根拠の違いの明確化
介護保険関連施設の法的な人員配置基準やその根拠・実数などの比較検証を行う。(文献検索と考察)

2.介護保険施設等(6種類)の実態等の比較検討
各々の施設の①サービスの望むべきあり方、②実態 ③人員が増えた場合について、アンケート調査を行い、比較検討する。

3.実際に勤務する職員数が入居者等の生活実態に及ぼす影響を明らかにする
朝7時から夜7時までの12時間に入居者等と職員がどこでどのような行動をしているのかの時間ごと、あるいは時間区切りの行動調査を行い、実際にサービス提供する職員数と入居者等の生活実態について明らかにする。

4.人員配置基準のあり方を検討し提言する
以上の研究結果に基づき、全体の比較検討を行い、国民にわかりやすい統一した根拠に基づく人員配置基準のあり方を検討し提言する。

ぜひ、報告書をご覧ください
 この研究は、実にユニークだと私は思う。現場の職員に、日常生活支援について「本来あるべき姿と思う内容」「現状」「人員が1.5倍に増えたら」ということでアンケート調査をした。これはこれですごくおもしろい結果がでた。
 また、5分毎に定点(リビング)で写真を撮って、それで一日の様子が目で見える。人員基準のあり方についても一定の提言をしている。

 実は、この研究は厚生労働省から示された内容ではなく、最初から自分たちで研究計画をデザインし、そして社)財形福祉協会のご尽力で研究が可能となったものだ。この研究結果が誰かの目に触れているのか、ほこりをかぶった報告書になっているのか皆目わからないでいたのだが、大森先生の目にふれ、きちんと目を通してくださっていたことに、驚くと同時にとても嬉しかった。“あんなに頑張って研究(作業)したことが死んでいないで生きていた!”と。

 印刷した報告書はもうない。その代わりといっては何だが、インターネットでそのまま手に入れることができる。社)財形福祉協会のホームページからぜひ、報告書をごらん頂きたい。見る人によってさまざまに考える材料となっていると思う。ぜひに!