入浴を拒否する認知症の人

入浴を拒否する認知症の人       6月15日分

 先日、東京・立川で三多摩の訪問看護師さんたちの研修会に講師として参加させていただきました。テーマは『在宅で暮らす認知症の人をどう支えるか』です。
 2つの事例の準備があり、グループに分かれ討論しました。それが偶然2事例とも『入浴を拒否する認知症の人への支援』についてなのです。(人も家族状況もさまざま違うのですが・・・)家族が言っても、ヘルパーが言っても、デイサービスでも、誰が誘っても入浴しないので数ヶ月入浴していない。ちょっと臭ってしまっている。本人がおっしゃる理由はそれぞれ違っていて、「友人が入浴中に亡くなったから入浴は絶対しない」など。
 さて、討論が始まりました。その方が入浴できるようにどう支援するかについて意見がどんどんでます。具体的なアイデアも考え方も多様にでます。他の利用者での成功事例の共有や「お風呂に入らなくても死なないから何年入浴していなくてもいいじゃないか」入浴不要説まで。または、『認知症になるとお風呂が嫌いになるのかしら』などという発言まで出てきます。

どうして入浴するのでしょうか
 グループホームでの支援でも、必ずといっていいほど『入浴しない人の支援のあり方』が課題になります。
認知症の人は、入浴が嫌いなのでしょうか?
 そういうことではないと思います。「入浴したくない」という表面に出てくる言葉は同じでも、その理由はその人によって全く違うのです。

 そもそもの話に戻ります。日本人はなぜ入浴するのでしょうか?
?の理由
① 地球上に約36億人の人がいます。その中で浴槽に湯をはって入るのが日常生活になっている人は、どのくらいいるのでしょうか? わかる方がいたらぜひ教えてください。そうではない民族は多いのだと思います。シャワー族はたくさんいると思いますが・・・。スウエーデンの個人のお宅に招待されたときには、その家族といっしょに、初めて会ったのに裸のつきあいで家庭サウナに入ってからデイナーでした。フィリピンの知人宅に泊めていただいたときには、シャワーもなく、水浴びでした。オーストラリアの訪問看護に同行したときには、半畳ほどのシャワールームでの朝のシャワー介助でした。・・・
② 私の若い家族は、入浴せず。シャワーのみ。浴槽に湯が張ってあるのに、入らないでずっとシャワーのお湯を出してあたっている。「お湯がもったいない」と怒ってもだめなんです。彼だけではなく、若者の間では普通のことだそうです。日本人の入浴好きの習慣は崩れつつあるのか・・・?
③ 信頼する知人の医師の発言。「入浴しなくても死ぬわけではない。僕は週一度しか入浴しない。陰部など汚れるところは朝洗面と同時に拭く。だから体をきれいにする意味での入浴はしない。患者さんに入浴しろというのはどうだろうか」という。医学的に見て入浴の意味は?  
入浴をする意味は、①体を清潔に保つこと(しかし、この目的の為なら浴槽の湯に中に入る必要はない) ②湯に入った気分・気持ちよさを味わうこと ③疲れをとること・・・・ 
私たち看護職や介護職は、“体をきれいに保つ”ということが大きな使命と考えるが、その方法を「入浴」にこだわらずに柔軟に考えなければならないのだと思う。ただ、入浴大好きな人が、さまざまな事情で「入浴しない」といってしまわざるをえない状況になってしまうのが、『認知症』なので、そこを見極めて支援したいものです。

認知症の人を専門に支援する訪問看護師さんの集まりを作る
 研修会終了後、若い訪問看護師さんたちが、「宮崎さん、いっしょに飲みに行きましょう! もっと話したいです」と誘ってくれた。予定はあったのですが、私もおしゃべりしたくて連れて行っていただいた。
「宮崎さん、要するに私たち看護師の頭の中を変えなければならないということですね」
「今までと、全く逆な見方・発想で認知症の人のことを考えてみることが大事ですね」
私「みなさん、自分がきょうの事例の人が担当看護師なら、入浴できるように支援できる?」
みんな「ええっ。私、たぶんだめです。できないと思う」「わからないなあ」「私はできるかもしれません」・・・
私「そうか・・・。どんな入浴拒否の人でも私に任せてください! といえる訪問看護師の集団を作らない? そうならないと利用者さん・家族・地域住民から求められないよね。入浴支援ができることが“プロ”ではないけれど、大事な何かがそこにあるよね。プロってなんだろう」
Aさん「そうですね。おもしろいですね。私、認知症の人の訪問看護を極めてみたいんです」
私「Aさん、あなたの訪問看護ステーションで、認知症の人をみんなで受け持つのではなく、あなたが専門となってみることは全部受け持つことは可能? 毎日、毎日認知症の人だけを訪問して支援していくのよ」
Aさん「たぶんできます。ね、所長、可能ですよね」
所長「OKですよ」
私「そう、だったらそうしてみよう。私も定期的にこさせていただいていっしょに考えていきたいわ。そしてそういう認知専門の訪問看護師さんの集まりを作って、じっくり考え、勉強しあい“技”を蓄積して、普遍化しましょう。それもこれまでの発想ではなく! どう?」
Aさんたち「ええっ、宮崎さんがうちのステーションに来てくれるんですか? うれしい! 集まりもいいですね! ぜひやりましょう!」

 おもしろかった! 厚労省の統計では、認知症の人の半数は在宅での生活。在宅での生活を支援するプロたちの力を蓄えることが大きな日本中の課題です。 医師も看護師もヘルパーもケアマネもみんな困っているし、力はまだまだです。私は、いつか認知症の人だけを対象とする「訪問看護ステーション」を作り、育ちあっていきたいと考えていますが、まず認知症の人だけを対象に実践する訪問看護師の集まりを作り、深めてみる動きが始まりそうです。
 興味のある方、どうぞ連絡ください。いっしょにやりましょう!
Mail info@miyazaki-wakako.jp