帆花ちゃんのこと

帆花ちゃんのこと   8月25日分

 頭ではわかっていた帆花(ほのか)さん・通称、ほのちゃんのような存在。NICU(新生児集中治療室)で一命をとりとめ、人工呼吸器をつけ・重い障がいがありながらも生きていく子どもたち。ケアはたいへんだろうなあと漠然と思い、そしてその命の意味を無意識に軽んじてしまいかねない風潮も感じていました。
 そんな時、ほのちゃんとお母さんの理佐さんに出会いました。地域の様々な方々の応援を受けながら、自宅で親子三人心豊かに暮らしていらっしゃるというのです。

若い母と、明るい家
 先日、ほのちゃんの自宅を訪問しました。担当している埼玉のはみんぐ訪問看護ステーションの塙所長さんと担当の訪問看護師さんに同行させていただいたのです。
 玄関に入ってまず私が驚いたのは、お母さんである理佐さんが若いということ。33歳。私の子どもといってもいい世代。「そうか、そうなんだ。こんな若い人たちが当事者なんだ・・・」当たり前なことなのに、高齢者を中心に支援してきたものとして、人生を長く生きた人の人生の後半期・最終版の人ではなく、若さ真っ只中を生きている人の人生そのものなんだなあと痛感したんです。また、理佐さんが表面上は静かなのに、奥深いところで明るいんです。無理に明るく振舞っているということではなく、もともとの性格のまま、ありのままの普通の理佐さんの姿のように見えました。
 家の壁には、親子3人の楽しそうな日々の写真がたくさん貼ってあって、仕事でお会いすることはできなかったけれど、お父さんの秀勝さんと理佐さん、そしてほのちゃんがお互いになくてはならない存在として、信頼しあって生活していることが伺えました。“身近で、普通に、ともに生きる”そんなふうに感じました。

ほのちゃんの入浴
 ほのちゃんは、1歳10ヶ月。出産時仮死状態で生まれ、主治医から「脳波は平坦、萎縮も見られる。目は見えない、耳も聞こえない、今後目を覚ますことはない」といわれたそうです。人工呼吸器を装着した状態で、体温調節も自分の力ではできないほのちゃん。生後9ヶ月で自宅退院。それがそう簡単ではなかったといいます。現在は、訪問看護週3回、訪問介護週5回、その他さまざまなサービスを受けている。夜間も両親二人が時間で交代でケアしているといいます。
 同行した日は、ちょうどほのちゃんの入浴の日でした。体重11kgのほのちゃんはまだベビーバスでなんとかOK。理佐さんと訪問看護師さんのあうんの呼吸で洗髪も。その間、理佐さんと看護師さんは1分おきといえる頻度で見るのが、モニター(心拍数)と体温。「えっ、体温が39度になっちゃったわ、エアコンの温度を調節して」「心拍数が下がらないわ、なにか負担がかかっているんだわ、なんだろう」「今日は人間の数が多いので室温に関係する」「ドアを開けたら、急いで閉めてください」と。ほのちゃんが自分で体温調節ができないので細心の注意のもとでの生活なのです。体位変換、吸引、経管栄養、おむつ交換など全ての日常生活が細心の支援が必要なのです。

ほのちゃんの表情・表現
 医師から、「耳も聞こえない、目を覚ますこともない」といわれ、いわば脳死(子どもは脳死とはいわなうそうです)に近い状態。ところが、表現する力が足りないほのちゃんなのにさまざまに表現しているのが分かるのです。人工呼吸器の器具類の間から呼吸に伴って出る「リーク音」というものが、声に聞こえるのです。その「リーク音」が、入浴中、着替えのとき、みんながおしゃべりしている時など別々な「声」なのです。
 また、私の錯覚かもしれませんが、理佐さんに「宮崎さん、シャンソンを歌ってください」といわれ、「では、フランス語で楽しい歌を・・・」と、『オーシャンゼリーゼ』をアカペラで(下手ですが)歌ったんです。その途中、ほのちゃんの舌が歌に合わせて動いていたように見えたのです! リーク音も違っていた・・・・。
 脳の状態からうまく表現できないけれど、ほのちゃんは確かにみんなの中にいていっしょに表現している! 
 今回の臓器移植法の関連でいうと、ほのちゃんは「生きている」とみなされない可能性もあるとのこと。「ムム・・・・」難しい・・・。
 「生きる」「生きている」ってどういうことなのか。生きることを支援する私たち看護・介護職。もっともっと深く考えなければならないと同時に、高齢者だけでなく、生まれたばかりの命、あるいはともに生きる命についても考えよう。私はそんな機会をいただき、ほのちゃんと理佐さんに感謝です。

シンポジウム『輝け 地域で育むいのち ~重症キッズの楽しい在宅ライフ~』
 理佐さんは、偉い! ほのちゃんたちは生きにくい環境の中で「生きている」と。同じような状況におかれている人たちが集おうと『なないろの会』を作り、交流し、さらに、社会に何らかの問いかけ・メッセージを投げかけようとシンポジウムを計画しています。
2009年10月7日(水)13:30~16:30 プラザウエスト(さいたま市桜区役所隣)
 『輝け 地域で育むいのち ~重症キッズの楽しい在宅ライフ~』
どうぞみなさん参加してみてください。連絡先 048-637-4700 (西村理佐さん)
  http://honosan.exblog.jp/

理佐さんのメッセージです。(2009年6月4日日記より)
 ほのさんと出会ってくれたみなさん。
 臓器移植法改正について、どのように思われますか?
 ほのさんのような子どもたちのいのちは、何ですか。
 とても難しい問いです。
 それに対する答えが見つからなくても、ほのさんのようないのちが存在していること。
 一生懸命生きていること。
 事実を、たくさんの人に知ってほしいです。
 それが、それだけが、切なる願いです。

当日は、ほのちゃんも参加するそうです。