映画『おくりびと』
映画『おくりびと』 4月25日分
前回お知らせしたシンポジウム『都市部における訪問介護を問う』へのご参加ありがとうございました。会場満員の参加者で、たくさんの会場からの発言で、成功裏に終わりました。何より、シンポジストの内容がとても素晴らしくなど、深まったように思います。まずはお礼まで。
きょうは、最近観た2本の映画の話。
映画『おくりびと』を観て、看護師はどう思いましたか
アカデミー賞を受賞した『おくりびと』。死後の納棺士の仕事のことだと聞いていたので、とにかく一度観なければと思っていました。劇場に行く機会をのがし、DVDになったので先日観ました。
感想は、『なかなか良かったけれど、複雑な思いになった』です。亡くなった遺体を整えて棺に納めることが卑しい仕事ではなく、残されたご遺族の心のケアにもなるとても大事なしごとであることが一般市民に理解されたことはとても素晴らしい大事なことです。仕事をめぐるさまざまな偏見をなくすことにもつながります。また、生きること・死ぬことを真正面にとらえて正直に表現してみんなが考えるきっかけになったことも良かったと思います。
私が、複雑な気持ちになったのは、あの仕事の内容は、本来は看護師の仕事であるということからくること。私は、訪問看護師として、自宅で亡くなった多数の方(3桁)のご遺体を『死後のケア』として身体を整え、死化粧をして、ご本人・ご家族が望む衣服をまとって棺に入る直前までのケアをしてきました。そのやり方も単純な遺体処置ではなく、様々な理由でご家族といっしょに行うことが多かったです。とても大事な『看護』の仕事でした。その後、葬儀屋さんに引き継ぐのでした。
ですから、納棺士という仕事があることも知りませんでした。実際に映画を見て実に良く描かれていて、私たち看護師のやり方と立場と随分違いました。その良し悪しは?
今、日本では年間100万人以上の人が死にます。その8割は病院での死です。病院で死亡した場合は、『死後の処置・死後のケア』は看護師が行っているところが大多数だと思います。『死後の処置』の終了後、納棺士がかかわっているのだろうか? 『死後の処置』を行っていない場合、葬儀屋さんが納棺士を依頼するのだろうか? 在宅での死の場合、訪問看護師がかかわれば、そこまでやっていると思うが、そうではないのだろうか? 亡くなる前から人生のターミナル期を共に過ごすプロとしてかかわり、その方が自分らしくその時期を生き、そしてどのように死を迎えるかをともに考え、そして「死」。その延長線上にご遺体のケアがあるのです。そこまでかかわって(ご支援して)はじめて完結するのです。
ご覧になった看護師のみなさん、どう思いました?
ちょっと、この頃の実態を調べてみなくては・・・。
『最高の人生のおくり方』
タイトルが正確でないかもしれません。病院の二人部屋で同室になった大金持ちの男性と自動車整備工の黒人男性が、ともに「がん」と診断され余命数ヶ月。口もきかない二人がふとしたことから、死ぬまでにやりたいことを紙にたくさん列挙し、それを実現していくというアメリカの映画。そして二人で世界中を旅して歩く。
共感することが多かった。私は『ターミナルケア』関連の講演のとき、よく例に出すのが「自分ががんと診断されて、余命半年といわれたら、どうするか。仕事を辞めるか。何をするか。何もしないか。何を考えるか」ということを会場の聴講者に問いながら話を進めて行く。そのときに私自身がもしそうなったらどうすると今は考えているかということをお話しする。
それまで、見ず知らずだった人間同士が人生の最期の時期をともに過ごす・生きる。人間の可能性と気持ちに正直に生きることの大切さみたいなものを感じた。観た後、なんとなく心が綺麗になっている自分に気がつく。
どちらも『死』に関する映画でした。『死ぬこと』にきちんと向き合おうということだと思います。