歌がうまいということ

歌がうまいということ  12月5日分

 フィンランドで歌っちゃったんです。「えっ、何を?」って。ええとですね、3曲です。「全くもう、あなたは・・・」とみんなにあきれられてしまいますが、でも中々よかったんです。

シベリウスの『フィンランデイア』
 歌う機会は、3回ありました。1回は、ビフィテイという町でちょうど在宅ケアの町の職員の忘年ダンスパーテイがあり、私と同行したAさん(大阪の訪問看護師、同年齢)も誘われました。タンゴ調の独特の踊りをいっしょに踊って楽しんでいたところ、「日本から来たノリのいい看護師さんたち、歌って!」とリクエストされ、私もAさんも断ることがきらいな性格なので歌うことにしました。即興の女性2部合唱です。「赤とんぼ」と「さくらさくら」。
 そのあと、私は1人で、アカペラで『フィンランデイア』という歌を、静かに心を込めて歌い始めました。歌う前に、「日本でもフィンランデイアが格調高く歌われています。日本語訳はいくつもありますが、おおむねこのような意味です。日本語で歌います」と。

♪♪①
七つの海越え響け はるかな国の人へ
ふるさとの野に歌える 私の希望こそ
世界の隅まで届け 平和へのうたごえ

青き空の色深く 木立も草も光る
わが祖国よ 若者よ 他国の山もまた
同じ光に映える 共に願い歌え

♪♪②
おお立ち上がれ、フィンランドよ、高く掲げよ
偉大な記憶の冠が飾るおまえの頭を
おお立ち上がれ、フィンランドよ、おまえは世界に示した
(他国への)隷属を追いやったことを
そしておまえが抑圧に屈しなかったことを
おまえの朝が明ける

 シベリウスは、1900年代のフィンランドの代表的作曲家。フィンランドの国が600年間スウーデン内の自治領(大公国)として、そしてその後100年間ロシア領として存在したのですが、言葉も民族も違うフィンランドは、1917年ロシア革命のときにレーニンが解放したといわれ、独立した国になりました。その独立の時期とシベリウスが重なり、「フィンランデイア」は、フィンランドの独立と重なって心に深く刻まれた歌のようです。
 それを日本人の私が歌ったんです。歌っている最中は、反応があまりなくてみんなどう思っているのだろうと歌いにくかったのですが、「いいや、心を込めて精一杯、恥ずかしがらずに歌おう」とマイクで歌いました。

涙を浮かべて聞いてくれたのです
 終わったあと、シーンとしてあまり拍手もなかったのです。そしたらたくさんの人が目に涙を浮かべて私を見ているではないですか・・・! 席に戻ったら「よかったわよ」とたくさんの人が握手をして声をかけてくださったのです。フィンランドの人は、日本人に似ているといわれるそうです。(逆かもしれませんが) 恥ずかしがりやで感情を表現しない、無口な人たちのこと、本当にそうなんです。どこにいっても表現しないんですね・・・。
 上手でもない私の歌を、言葉が通じない国の人が涙を浮かべて聞いてくださった! なんと感激的なことなのでしょう! 何かが通じたのですね。
 それにしても、34年前の18歳のときに世界中の数百曲の歌を覚えたことがこういうところで活きたとは・・・。 ありがたいことです。それだけで心と心が近くなりました。

シャンソンのチャリテイコンサアートのとき 
 私がシャンソンを習っていることは何度かお話しているかと思います。年に何回かある発表の機会のことです。仲間の1人の男性(たぶん、70歳代)が、「生きる」という歌(?)をフランス語で歌ったのです。それが素晴らしかったのです。彼はいわゆる歌がとてもうまいという人ではないかもしれない(うまいですよ)。しかし、その日のその歌が、私にとても響いてジーンときたのです。終わったあと、「きょうの歌は特に素晴らしかったですよ」といったら、「宮崎さん、実は僕、がんになっちゃったんですよ。いろいろ考えましてね・・・」と、明るく話してくれるのです。「ええっ・・・。そうなんですか・・・」

「歌がうまいというのは、相手の心に響くこと」 
 私にシャンソンを教えてくださっている長坂玲先生は、美しく、歌がとてもうまく、教えるのも天才的で素晴らしい方です。小さいときから音楽の道を志し、東京芸大の声楽科を卒業し、オペラ歌手としてヨーロッパで長く勉強して、そしてシャンソン歌手になられた。よくさまざまなお話をさせていただくのですが、私が口癖のように「私は音符も読めないし、声量もないし、いつまでたっても下手で申し訳ありません」というと、先生はこうおっしゃるのです。
 「宮崎さん、歌がうまいとはどういうことかわかりますか。音程がしっかりしているとか、声がきれいだとか、声量があるとか、そういうこととではないですよ。そういう人は世の中にたくさんいるけれど、では歌がうまいかというとうまくない。歌は、聴く人の心に届くこと、響くことができることが『うまい』ということなんですよ。だから、宮崎さんはうまいですよ」と。
 「フィンランデイア」も、だからみなさんが涙を浮かべてくださったのかな。私は心を込めて歌っただけ。でももしかしたら、私は歌がうまいのかもしれませんね。どうぞ機会あるごとに聞いてやってください。私でよければいつでもどこでも歌います。