雛人形

雛人形        2015年2月25日分

一枚の写真

壇飾りの雛人形を背に
晴着姿の幼い姉妹が並んで坐っている
姉は姉らしく分別のある顔で
妹も妹らしくいとけない顔で
姉は両掌の指をぴったりとつけて膝の上
妹も姉を見習ったつもりだが
 右掌の指は少し離れて膝の上

この写真のシャッターを押したのは
多分、お父さまだが
お父さまの指に指を重ねて
同時にシャッターを押したものがいる
その名は「幸福」
幸福が一枚加わった
一枚の写真          作:吉野弘

そういえば
なんていい詩でしょう。

そういえば
戦争で幾人も家族を亡くした家に女の子が生まれた
家族が増えたことを喜び、背伸びして壇飾りのお雛様を手に入れた
毎年3月に包み紙にしまってある人形を一つ一つ出して並べた
ついでに土産でいただいた人形も飾った
首ふり人形もあった

そういえば
雛人形の顔を「きれいだね」と褒め
女の子の顔も「あなたもきれいただね」と褒められ
雛人形の髪飾りのきらきらをみるたびにうれしかった

そういえば
女の子の母は甘酒を作り
のり巻きを作り
あられを作り
近所の子どもたちが見に来て
お駄賃でごちそうした

そういえば
あれから58年
そのお雛様は 今年も
認知症グループホームの高齢者が包みから出してくれる
雛あられを頬張りながら
「きれいだね」「きれいな顔だね」
「そういうあなたもきれいな顔だね」
何度も褒めあう
雛人形も恥ずかしいやら うれしいやら

吉野弘の詩を読んで、こんな情景を思い出した