7月15日

映画『選挙』を観て
選挙のことがドキュメントで映画になっていると聞いたのは、足立区長選挙の真最中でした。とにかく見てみなければと先日渋谷で観てきました。

◆あらすじ
すでにご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが・・・。落下傘部隊として地元に何の縁もない山内和彦氏(40歳)が川崎市の市議補選に立候補することになった。自民党公認だが、地盤がない。他の議員の地盤を借りての選挙。協力した議員からは、「補選だから通るが、次は自分の力で戦わなければならないからたいへんだぞ」といわれながら、夫婦そろって必死で取り組んでいる様子が描かれている。朝の駅頭での宣伝活動から、夜遅くまで。二人そろって家に着いても引っ越してきたばかりのダンボールがまだ空いていない状態のワンルームに着の身着のまま寝る。僅差で当選する。解説や音楽など全くなしのそのままの映画。

◆感想
*選挙に立候補したものとして“同じだなあ”と思ったこと
・朝早くから宣伝活動・・・とにかく朝早くから夜まで体力勝負、自分が真っ先に動くことが必要なこと
・手の上げ方や演説の仕方など慣れないことからの出発の緊張感
・周囲の声・・・ありがたいんですが、意に反することを言われてどうすればいいか悩むことが多い。時に全く正反対のアドバイスも受ける。たとえば、映画では妻が働いて彼を養っている形になっているが、支持者が「妻は仕事を辞めたほうがいい」という。そのことで、帰りの車の中で二人で口論になる。妻の人生をどうするのか・・・。私のときにも、さまざまあった。洋服の色や化粧の仕方まで。支持者の言いなりになることが必ずしも良いことだとは思わないが、しかしせっかくのアドバイスなので・・・。
・疲れて寝るだけ・・・何だかわからないが、とにかく疲れる。終わったあと、皆さんが口をそろえて言う言葉「お疲れでしょう」と。選挙に慣れてくるとそうでもないんでしょうか? 
 など、選挙期間中の時間の使い方、支持者との関係性、組織・団体とのからみ、など共通して、そうだったなあと思うところはいくつもあった。

*お金はどうしたのかな? 政策がほとんど出てこない
 映画の中で物足りなかったことは3つ。
①選挙資金のことがほとんど出てこなかったこと。唯一出てきたのは、映画の中で妻が「これで落選したら私たち一文無しよ」ということ。ということは、自分たちの私的なお金をかなり使っていること(全財産かな?) 落選したときに何も残らないこと。(お金も仕事も) たぶん、そのかわり、当選したら議員としての報酬を自分の収入とするのでしょう。生活がかかっている事業なのですね。この資金の扱いとその後当選の折の報酬の分配の方法が、政党によってかなり違うのだと思う。そのことは当然選挙中の動き方・気持ちにも影響する。たぶん、このことが歪んだ政治、利権政治・金権政治のもとになるのだと思う。描けないのかもしれないが、そのあたりをもう少し突っ込んでほしかった。
②政策の中身の論議が見えなかったこと
 選挙は『政策』。接戦だった相手候補・自称「福祉の専門家」の民主党の候補者との政策の違いなどを出したほうがいいと思った。出しにくいのは重々承知の上だが、でないとただ単に、選挙に出ることの物理的な大変さだけになってしまう。選挙で大事なことは、誰がどういう政策を作り、それを相手候補者とどう議論するか、そしてそれを一般市民がどう選択するのかのはず。それが抜けている選挙・映画は薄っぺらである。それがこの映画ではほとんど見えなかった。ましてや一般市民の動きや声は全く見えない。
③山内氏の立候補の動機や議員になって何をどうしたいのかが伝わってこない。

*これが映画になって観客が多いということはどういうことだろう?
選挙に立候補した私が見た感想は前記の通りですが、一般市民、特にこれからを担う若い世代はこの映画をみてどう思ったのだろう?
・ 政治というものが少しでも身近になったのかな? たとえば、自分の立候補してみようとか。そういうことを望むなら、山内氏が政治をどう勉強し、何をどう変えたいと思っているかをきちんと伝わるようにしなければ。選挙に立候補するのは、ただ単にお金目当て、名誉目的ではないはず。
・頭を下げ、怒られ、眠る暇もなく、たいへんな思いをして選挙に立候補したが、いったいそれで何を得たいんだろう? と思った若者もいたのでは?
・政党間の違いが全く出てこない。これは自民党の川崎市議補選の一候補。これを観て選挙ってこういうものなのかと思い込まれては困る。自民党の典型的な選挙の仕方なのかどうかは知らないが、選挙の仕方は多様。多様でなければならないし、こういう選挙のやり方でダメだと思って、違った選挙をするする人も多い。そのことも少しは伝わる中身の映画にしてほしかった。私自身もこの映画と違う選挙をしようと頑張ったものの一人。表面化できない中身の実際は少なくないかもしれないが、それも含めて公表し、変えていかなければことが多い。
政治家は何をする人なのか、そのための選挙って何なのかを、一般市民に少しでも分かりやすく伝える映画なのかもしれないし、それは一定程度伝わったのかもしれない。しかし、私の中には、物足りない感情が多く残った。

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